”おかげ犬”のいる世界【お伊勢参り/番外編】

体験レポート

今回、お伊勢参りで確かめたかったことがある。
ちょっと、にわかには信じがたい、ある犬の存在だ。
その名は「おかげ犬」!

歌川広重の『隷書東海道五十三次 四十四 四日市 日永村追分 参宮道』をよく見ると…

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中央にいるこの白い犬。これが「おかげ犬」。

江戸時代、「おかげ参り」と称して庶民の間で伊勢神宮参拝が爆発的ブームになるなか、病気などで参拝できない主人にかわって、お伊勢参りをしたエラい犬である。

歌川広重『伊勢神宮・宮川の渡し』にもおかげ犬が登場(部分絵)

福島県須賀川宿で代々庄屋を務める市原家に飼われていた白毛の秋田犬「シロ」は、人間の言葉がなんでも分かり、買い物や用事を行う、町でも評判の利発な犬だった。

ある年のこと、当主の綱稠(つなしげ)氏が病気になってしまい、伊勢参りを行うことができなくなってしまう。 どうしたものかと皆で相談したところ、「シロ」に代参させようということに決まり、道中の路銀と道順を記した帳面、『人の言葉が分かるので道順を教えて下さい。「シロ」を助けてやって下さい』という紙を「シロ」の頭の頭陀袋に入れ、伊勢神宮に向けて出立させた。

(中略)「シロ」は奥州街道(現在の国道4号線)を下って江戸に入り、東海道~四日市経由で伊勢神宮に向かい、2ヶ月後の夕方、無事に帰って来る。 頭陀袋の中には、皇太神宮(内宮)のお札と奉納金の受領や食べ物の代金を記した帳面と路銀の残りが入っていた。

出典:「福島県須賀川からお伊勢参りに行った忠犬「シロ」の犬塚


ウソでしょ? Σ(゚Д゚;)

そして、驚くべきはこのシロのみならず代参する犬がほかにもいて、浮世絵に登場するほど、当時の人々に浸透していたということだ。
道中では導いたり、餌をあげたり、軒先を貸してくれたり、さまざまな人たちが犬を手助けしてくれたらしい。
頼まれなくとも、江戸時代の人々はリレー式に犬を連れ、ときには路銀を足してあげたり、また袋が重くて犬がかわいそうだと銀貨に両替してくれる人までいたのだとか。
お伊勢参りをする犬を助けること自体が、徳を積むと信じられていたようだけれど、こうして人の善意によって犬は伊勢神宮まで送り届けられ、また人々の助けを借りて、元いた土地に戻ってきたのだ。
(GoProを犬に付けてみたい…)

伊勢神宮に行く途中で見かけた壁画アート

現代では、道路は舗装され、車は行き交い、お伊勢さんまでの道のりは危険がいっぱいだろうし、そもそもリードなしで犬はひとりで歩けないルールだ。仮にそのような諸々の障害がなかったとしても、人への危害が心配だとか、犬がかわいそうだとか言い出す人がいたりして、おかげ犬代参を禁止する法律ができてしまいそう。

もちろん、おかげ参りからすべての犬が無事帰って来られたわけではないのかもしれない。
いい人も悪い人もいたんだろう。
それでも不思議と、おかげ犬のいる世界に、私は心惹かれる。社会には寛容さが、そして人にも大らかさがあり、さまざまな”余地”が残っているように感じられるからかもしれない。
私もおかげ犬と、伊勢への街道を歩いてみたかった〜

ところで、「おかげ犬って本当にいたの?」と誰かに聞いてみたかったけれど、確認するのが憚られるほど、伊勢神宮のおかげ横丁には、おかげ犬グッズで溢れていた。
不思議で楽しいおかげ犬文化。
主人のために長旅した犬、きっとたくさんいたんだろうな。