心も体も満たされる本格派フレンチ「レスプリ・ミタニ ア ゲタリ」の夜

プチ贅沢

「Lesprit Mitani a Guethary(レスプリミタニ ア ゲタリ)」(東京・四谷)
大切にしている料理本がある。三谷青吾シェフの「基本をきわめるフランス料理」↓

プロ向けのフレンチの教科書で、手が込んだ美味しそうな料理ばかりが紹介されている。
いつか作ってみたい!とは思うものの、どの料理も素晴らしくて(すごすぎて)、
素人の私にはまだ手が出ない…。
でも、眺めているだけでもパワーやインスピレーションがもらえるし、
三谷シェフの半生や料理人としての姿勢、考え方など読み物としても面白い本なのだ。
どうしてその本を手に取ったのか、もうきっかけは覚えていないのだけれど、
以来、私は三谷シェフとその料理にずっと憧れて続けてきた。

三谷シェフの料理人への道は、デパートの屋上の食堂からはじまり、
一人渡仏し、星あり星なしさまざまなフランス料理店、ゲラン一族の専属料理人、
原宿Aux Bacchanalesをはじめとする日本のフレンチ料理長を歴任して、日本でのお店の開店へと続く。
この本を通して彼のドラマチックな料理人人生と、料理への真摯な姿勢に引き込まれ、
勝手に敬愛し、ファンになってしまった。

「いつかは行きたい!」と思っていたその憧れの店、四谷の「レスプリミタニ ア ゲタリ」には、
結婚20周年を迎える今こそ行くべきではないのか…!
よし! さっそく予約だ! 

フランス料理店の予約さえ初!の私は、緊張感いっぱいでやってきた…。
四谷駅からしばらく歩く、路地裏にひっそりたたずむレストラン。
外からでは何のお店かもわからないゾ。いざ、店内へ!

予約をした旨を伝えると、マダムが「ようこそお待ちしていました」と笑顔で出迎えてくれた。
あたたかな飾らない雰囲気の店内…素敵!

気さくな人柄のマダムと相談しながら、お任せ10000円のコースをお願いした。
(アラカルトメニューのほか、8000円・10000円・12000円のコースがある)
たのしみ….

待っている間にふとカトラリーを見ると、素敵なライヨールだった。
鹿の角製の柄がとてもユニーク! 
肉料理で有名なこのお店に、この使い込んだカトラリーはとてもしっくり合う。
山小屋?で料理を待つような心持ち。気持ちが高まってしまう。

ワクワク待っていると「うさぎのパテ ゼリー寄せ」
(メニューを見ておらず正式な名前は覚えておらず..)が登場。
ワイルドな盛り付けのパテを一口食べて、まずその繊細な味にびっくり。
うさぎってこんなに美味しいの…。
初めてのうさぎと、様々な食材から出た旨味にただただうっとりする。

そして「ホワイトアスパラガスのミモザ風サラダ」(また名前うろおぼえ…)
わざわざフランスから空輸したという肉厚のアスパラガスに、卵と生の赤タマネギ、
ビネガーの風味だけのとてもシンプルな料理。だのに、ハッとする美味しさ。 
食材の素晴らしさだけではない、その素材を生かすセンスに脱帽…

次はココット鍋に入ったきのことイカのソテー。
熱々の鍋にまたワクワク。目の前でかき混ぜて、お皿に盛る。
バターの香りがもう待ちきれない…

柔らかなイカと、香しい見たこともないフランス産のキノコたち。
どれもこれも美味しい! としか表現しようがないのだけれど、
この真っ黒いきくらげみたいなキノコ 、トロンペット・ド・ラ・モールに興味津々。
マダムに伺ったところ、名前の通りトランペットのようなかっこうをしているキノコらしい。
どのキノコも香りがしっかり残っていて、新鮮さがうかがえて嬉しくなる。
すべてフランスから空輸…!  香りまで本場のものが楽しめるなんて、なんて贅沢!

あまりの美味しさと驚きに興奮しまくっていると…
と次にやってきたのは、「スープ・ド・ポワソン」。
さまざまな魚介と野菜の複雑な味わいが、押し寄せてくる濃厚な旨味のスープだ。
また感動! なんだこれ…
「うちは肉料理が多いので、魚介もぜひ楽しんでいただきたくて考えたスープなんですよ」とマダム。

まずは、シンプルにスープを楽しむ。濃厚な見た目から想像していたより、ずっとあっさりしている。
滋味にあふれた素晴らしい味…

スライスしたバゲットに、細かくすったたっぷりのグリュイエールチーズとにんにく。
途中でスープに供して食べる。

先ほどあっさりと感じたのは、このためだったのか…と納得した。
一転、濃厚さが加わる深い味わいに。その足し算、引き算にまた感動。
もっとたくさん食べたい…!と思わず思うも、これは上質な材料から抽出した貴重な雫なのだと気づき、
ただただ有り難く頂く。なんていう贅沢なんでしょう。

そしてメインの鴨のロースト。このピンク!
間違いなく、生まれてから食べた鴨料理の中でいちばんに美味しい一皿だった。
肉の火入れが素晴らしく、先ほどのライヨールのナイフですっと引くと切れるほどやわらかい。
表面の香ばしさと肉のやわらかさ、甘さ。魂の一皿だと思う。
お皿の真ん中の縦に配した細いお肉は、鴨のササミなんだそう!
はじめて食べた鴨のササミは、ひときわ柔らかく美味でした。

思わず笑みがこぼれる!

ワインに疎い私に、マダムがすすめて下さった赤「ブルゴーニュ・シャンベルタン」。
今日の料理にぴったり。

もう大満足…なのに、デザートまで! 
予約時に結婚20周年と伝えていたからでしょう。
こんな心憎いお祝いのサプライズが! とてもうれしい気持ち。
私はマダムおすすめのガトーショコラ。
濃厚で、甘みたっぷりのチョコレートに本場フランスを感じる。

主人はフランボワーズのムース。
こちらも本当に美味しかったみたいです。

とにかく夢のような時間だった…
驚きと喜びがかわるがわるやってくるレスプリミタニの料理。
三谷シェフのエスプリ〜魂、精神〜が本当にすべての料理の隅々にまで籠もっていて、
素晴らしかった…!

と、あとで聞くと黒板に描かれたこの可愛らしい絵は、三谷さんが描かれたんだそう! 
鳥とか…かわいすぎる!
マダム曰く「昔は修行のために、いろいろなレストランの食事を食べては、写真は撮らず、目と舌など五感だけですべてを記憶して、帰ったら忘れないうちにノートに記録していたんです。だから自然に絵が描けるようになるんですよ。うちでは昔ながらに今でも若い子たちにはそうするように言っているんです。写真と記憶するのとでは学べることが、ぜんぜん違うです」。

なんて素晴らしい! 本当にマダムのおっしゃる通り!
(ガンガン写真を撮っていた私は急に恥ずかしくなる…(-_-;))

帰り道、思い出したのは大好きな映画「バベットの晩餐会」。


あるデンマークの小さな漁村に満身創痍でやってくる主人公バベット。
彼女は自分の過去を捨て、貧しい村の牧師館で老姉妹のメイドとして働きはじめる。
実は彼女はかつてパリで名を馳せた伝説の料理人。
ある日宝くじに当選したバベットは、村人たちのために食事会を開催することを姉妹に願い出る。

教会で「贅沢は悪」と教えを受ける村人たちは、牧師館の姉妹のため、
バベットの作る料理がどんなにまずくとも、また美味しくとも、
一切何も話すまいと固く誓うのだが…。
見たこともないバベットの料理は、喧嘩していた村人を和解させ、
いつの間にか顔には笑顔が、頬は紅色に、口からは笑いがもれる。
手をつなぎ歌い踊りながら、村人たちはみな帰路につく。
いつもは気づきもしなかった、空の星々の美しさを発見しながら…。

幸福な気持ちは、言葉よりも雄弁さをもって、彼らのこころに饒舌に語らせる。
真の芸術は、理性よりも先に人のこころを豊かさで満たすものであること。
その様子が、驚きとともに彼らの表情を輝かせるのだった。

「バベットの晩餐会」と同じく、レスプリミタニもにぎやかなお客さんたちの笑い声で溢れていた。
私たちも帰り道、ただただ幸福な気持ちで満たされていた。
こんなにお腹がいっぱいになったフレンチもないけれど(笑)
心までこんなに満たされたフレンチもはじめて。

来月の次男の大学入学祝いに、またカムバックを誓ったのでした。
素晴らしい夜を、ありがとうございました!

※残念でなりませんが、2020年12月に閉店されました。


レスプリ・ミタニ ア ゲタリ(L’esprit MITANI a GUÉTHARY)
〒160-0011 東京都新宿区若葉2-7
03-6380-5050

【営業時間】lunch: 11:30~14:30 (ラストオーダー 13:00) 
dinner: 18:30~24:00 (ラストオーダー 21:30)