真摯なカレー、ディラン

神田・神保町

「カレーライス ディラン」(東京・神保町)
「美味しい」と「好き」は人それぞれと思いつつ、共感できる人を見つけるとそれはそれは嬉しい。
厚かましくも気の合う友を見つけた気分だ。
そう、それがたとえ本の中であったとしても!

私にとって、食の分野でのその人は岡本仁さんで、『僕の東京案内』で紹介されていた「カレーライス ディラン」に出かけた。

11時半の開店15分前に到着。まだ看板は出ていなかったので外で待つ。
後ろに人が並び始め、ほどなくしてお兄さんが看板を持って現れた。

細い階段を抜けて、2階へ。

カウンター10席と4人がけのテーブル席がひとつ。
あれよあれよ…という間に、満席になった。

例によって予備知識はないので、迷いながら夫と2人、ハーフ&ハーフを頼むことにした。

「チキン&ポーク、チキン&ダルのハーフ&ハーフを1つづつ…」と伝えると、
眼光鋭くアイコンタクトのまま、無言で深く頷くお兄さん。
まるで「あなたを許す」と言われたかのような、深い安堵感が私の胸を満たし、なぜか嬉しい気持ちになる。
この気持ちは…何?
(いや、別に何も悪いことはしてないのだけど)

せっせと一人、カレーを用意するお兄さん。
まだ会って数分だけど、すでに私はこの店主の料理に向けた真摯さを信じはじめている。

新店舗のような輝きを放っている、厨房の換気扇。ステンレスの厨房機器。ガラスやテーブル。
そして、たった一人で真剣な面持ちで一皿一皿に向かう姿勢。
「写真を撮っていいか」と伺った時、「お客さん以外ならどうぞ」と言ってくれた一言以外、終始無言。
それでいて、横柄さは一切感じられない。
一流の職人、もしくは立派な武士のような、ひたむきな姿に一人心打たれていた。

そうこうするうちに「ポーク&ダル、大根、ほうれん草」のハーフ&ハーフが到着。
彩りも美しい。
右の黄色い部分はダル(豆)のペースト状のカレー。
スパイスの香りが複雑でなんとも言えない美味しさ。辛みはほとんど感じられない。
大根の食感、甘み、そして形を保ってみずみずしいほうれん草。
カレーなの?というくらい、私の中にないタイプ。ホッとする美味しさだった。

そして左のチキン。プリプリした弾力を残しつつ、ほろほろ崩れる柔らかな鶏肉。
ココナッツミルクの甘い香りと味わい、そして複雑なスパイス。
いくらでも食べられそう! とっても美味しい。
こちらもスパイス感はあるが辛みは強くない。

そしてこちらは、左チキン、右ポークのハーフ&ハーフ。

チキンもポークも、これでもかっ!というくらい塊肉が入っていて驚く。
店主の良心に感謝。
いずれの肉も弾力があって、味わい深い。
形を保ちつつ、こんなに柔らかな肉はなかなかない。
(家のカレーなら、どんなに入れても溶けて無くなってしまうもの)
スパイスの色?が深いダークな色味のせいか、脂身が少ないせいか、ビーフ感がすごい。

夫に至っては、食べ終わるまでポークであることを忘れていた始末。
曰く「限りなくビーフに近いポーク」だそうだ。

大満足でお店を出ようとして、ドアの張り紙に目がとまる。

「ごちそうさまでした」とお会計を渡した時の、両手でお金を受けて、頭を下げた店主の人柄を思う。
値上げ…全然いいです。今までだって、安すぎるくらい…と伝えたい。

また、きますね!

帰りの階段は大行列だった。
この集客力!…でも納得。

カレーライスディランは、このビルの2階です。

帰り道、前の通り沿いに立派なクスノキを発見。ちょっと食休み。

夫の一押しのお店になったようなので、これからも頻繁に来ることになりそう。
また、大好きなお店がひとつ増えました。
ごちそうさまでした!

※2023年5月閉店されたとのことです。残念…!!

カレーライス ディラン
東京都千代田区神田駿河台3-3-3 K&TT駿河台ビルディング 2F
月曜〜土曜 11:30〜15:00