原美術館「ソフィカル-限局性激痛」展とカフェダール

体験レポート

「カフェダール/ 原美術館」(東京・北品川)
原美術館 Hara Museumが2020年12月に閉館してしまうと聞いて、焦った。
一度も行ったことがない。行っとかなきゃ!実は現代美術ってちょっと苦手なのだ。
でも、今回観た「ソフィカル-限局性激痛」展の面白かったこと!

原美術館に到着。北品川の閑静な住宅街にひっそり佇む素敵な美術館だ。
実業家原邦造の邸宅として1938年に建てられた洋館で、
人の家をながめるのが好きな私は、実はずっと行ってみたかった場所。
館内はモダンなつくりで、石と木、白壁の自然な風合いが素敵な建物だった。
老朽化で2020年閉館って、壊されちゃうのかな?(未確認) もったいないな…

ミュージアムショップの窓。外から見るのもとてもかわいい。

「ソフィカル-限局性激痛」展
実はぜんぜん期待していなかったこともあり、想像以上に面白くてびっくり。
これは美術展というより、あまり親しくない友人の告白、もしくはドキュメンタリー映画を観たという感じ。旅行、映画、人の内面に興味がある私にはとても面白かった。
以下、ネタバレ含みます。

『限局性激痛』1999年

1984年、私は日本に三ヶ月滞在できる奨学金を得た。10月25日に出発した時は、この日が九十二日間のカウントダウンへの始まりになるとは思いもよらなかった。その果てに待っていたのはありふれた別れなのだが、とはいえ、私にとってそれは人生で最大の苦しみだった。

展覧会入口に上の文章がある。 「days until unhappiness」
不幸に至る日々、とでもいうのだろうか。
私たちはカウントダウン形式に、ソフィが日本への旅行の中で見聞きしたこと、出会った人々の様子を写真で見、フランスに残してきた彼女の愛しい恋人へ宛てた手紙を読むという形で、彼女の感じたことを共有していく。

最初てっきり、「ああ、彼女はとても日本での生活を楽しみ、素敵な思い出を作り、別れがたい人々との別れのことを言ってくれているんだろう」と思った。
写真も飾り気がないけれど、正直で、実にリアル。そんな彼女が可愛らしいとさえ思った。
…とここまでは、私の勝手な妄想。

だが進むうちに、全然違うことに気がつく。
まず、彼女にとって「日本は最も行きたくなかった場所」(最初ニューヨークに行ったら楽しすぎて遊びを満喫しそうだったので、最も行きたくない場所にこそ自分の新たな成長のために行くべきと思いたつ)で、でも行きたくなさ過ぎて、最も遠回りできる列車旅を選び、できるだけ日本の滞在期間を減らそうと努力したこと。
そして到着しても、何をしていいかわからないくらい退屈な場所だと感じたこと(一日、知らない日本人カップルの後ろをつけて追跡遊びで時間を潰したりする)などが分かった。

あ、そういう人…?

で、3ヶ月の旅の最終日、ハイライトとしてフランス人の恋人とインドで落ち合う約束をして盛り上がるのだけれど、そこに彼は現れず。
「そちらに行く途中、交通事故に遭い、病院にいます。フランスのお父さんに連絡されたし」というメッセージが届く。死んでしまうのでは?と心配する彼女をよそに、実は彼は新しい恋人に心変わりしただけ。
それを知ってソフィは、人生最大の苦しみを味わうのだった。

さらに、立ち直れない彼女は自分自身の傷を癒すため、自分の不幸話を人に語り、また相手の最も辛い経験を聞き集めることにする。
これを写真と文章で作品化したのが今回の展覧会である。

えっ…


ええ〜 (゚д゚lll)

す…すごい身勝手さ。
しかも、彼女以外の人の不幸話がまたすごい。
「たったひとりの最愛のお兄さんが事故に遭い、死亡。ショックを受けながら、その苦しみをお母さんと共有しようと思ったら『私の愛したたったひとりの息子は死んでしまった』と告白される」とか「最愛のお父さんの2ヶ月の余命を知り、その事実を告げるかどうかを葛藤しながらだまって看取った日々」とか「楽しい外国生活から帰省せず、このままここに住みたいとお父さんに電話で告げたことが、長患いをだまっていたお父さんとの最後の会話になり、自責の念から帰郷してお父さんの墓前を訪れられるまで20年かかった」人や「何年も失踪していた旦那さんが帰ってきて、目の前で恋人が去っていった人」「奥さん、最愛の幼い息子二人とも別れなければならなかった人」とか。

はっきり言って、ソフィの話がいちばん大したことない…

ソフィの彼なんて本当に病院に行くには行ったけど、
手にささった爪をとってもらうからだったとか。
しかも、自分が病院に行ってることを、恋人のお父さん経由で話を伝える?
そのワンクッション、すごい迷惑じゃん…。
別れ話も電話じゃなくてせめてインドまで行って、直接自分で言えよ!と思う。
ソフィもソフィで、そんな自分を癒すために人の傷口をほじくりかえす。

この二人なんなんだよ!と思う反面、同時に人って面白いなと思う。
すごく個人的な感情で、地球上では多くの人が苦しんだり、悲しんだり、笑ったりしている。
苦しみや喜びは人それぞれで、その人にとっておおごとなのだ。
もしかしたら、傷ついてうじうじとインナースペースに閉じこもるより、
人にぶつけるって、意外とポジティブな行為なのかもしれない。
身勝手で、自分の気持ちが第一で、正直なことは悪いことじゃないのかも。
憎めなくて、人間っていいなと思った。
カッコつけずに自分をここまでさらけ出すって、逆に勇気がいるもんね。

色々な気持ちが交錯して、最終的にポジティブな気持ちで
「面白かった」と言える、そんなエキセビションでした。

展覧会のあとは、原美術館内のレストラン「カフェダール」へ。
こちらも想像以上に、美味しかった。

ランチのBコース(2375円)の前菜「ポークリエットとモッツアレラチーズのクレープ包み、バルサミコソース」
リエットはきっと自家製なんだろう。チーズとの相性が最高!

こちらはAコース(2375円)の前菜「5種類のオードブルバリエ」
ひとつひとつがしみじみと美味しい。気持ちが行き届いていた。

Bのメインディッシュ「イタリア産フンギポルチーニのクリームソーススパゲティ」
驚異の美味しさでした! 家でもぜひ作ってみよう。

Aのメインは「鱸とホタテ貝の白ワインソース」
こちらも美味しかった! ソースは真似したい。

料理はどれも普通の美術館のレストランレベル以上だと思います。

帰りに、なんでこんなところに電話があるのかな?と思ったら…

作品だった。
現代美術って面白いのね。

ソフィカル展は3月28日まで。面白かったです。

原美術館 Hara Museum of Contemporary Art

住所:〒140-0001 東京都品川区北品川 4-7-25
tel:03-3445-0651